乳腺外科

診療案内
乳癌
日本では乳癌が年々増加し、女性の癌罹患の第1位になっています。毎年約9万人が乳癌に罹患し、癌全体の約20%をしめています(図1)。年齢階級別にみると、30歳代後半から増えてきて、40歳代後半と60歳代後半にピークがあり、70歳代を過ぎても乳癌の発症を認めます(図2)。


症状
以下のような乳房の気になる症状がある方は、乳腺外科外来にご相談下さい。
- 乳房に「しこり」がある。
- 腕を挙げたとき、乳房に「えくぼ」「ひきつれ」がある。
- 乳頭からの分泌(血性)がでる。
- 乳頭にびらんや、ただれを認める。
- わきの下にしこり(硬いリンパ節)を触れる。
- 健診にて“要精査”といわれた。
上記症状が当てはまるからといって、必ず乳癌というわけではありません。乳腺には良性疾患が多く、自分で触っただけでは良性か悪性かがわからないことがほとんどです。今までなかった乳房の症状が出てきたり、健診でチェックされた場合は、まずは乳腺外科外来(月・水・木)にご相談下さい。
検査・診断
マンモグラフィ
蝕知できない早期の乳癌(小さい腫瘤、石灰化した微細な乳癌)を検出することができ、乳癌の診断に欠かせません。ただし、乳腺が密な若年者は、X線写真が全体的に白く映ってしまい、腫瘤を見つけるのが困難なことがあります。
乳房超音波
乳腺疾患の診断に必須の検査です。マンモグラフィに比べて石灰化の診断は困難ですが、腫瘤の内部構造の鑑別がしやすく、乳腺が密な若年者にも使うことができます。
針生検
超音波ガイド下に14G針を病変に挿入し、組織を採取し、病理診断を行います。
BRCA遺伝子検査
遺伝性乳癌卵巣癌症候群(HBOC)の原因遺伝子であるBRCA遺伝子に病的な変異があるか調べます。2020年4月から特定の医療機関において、BRCA遺伝子検査とカウンセリングを保険診療でできるようになり、当院でも検査することができます。対象は、乳癌と診断された方で、図3の項目が1つでもあてはまり、一定の条件を満たしている患者さんです。検査は血液検査で行い、検査結果が分かるまで約3週間かかります。

治療
乳癌の治療には、局所的な治療(手術療法、放射線療法)と全身的な治療(化学療法(抗癌剤治療)、内分泌療法、分子標的治療)があります。病状や患者さんの希望に合わせて最適な局所的な治療と全身的な治療を組み合わせて行います(図4)。

手術療法
乳房に対しては、乳房切除術(癌を含めた乳腺組織全て、乳頭、乳輪を切除)または乳房部分切除術(癌を含む乳腺組織を部分的に切除)(図5)を行います。乳房部分切除術は癌を取り残さないことが大前提であり、癌の広がりが大きい場合は、乳房切除術が選択されます。また乳房再建(一次再建、二次再建)の希望がある場合、形成外科に相談しています。

腋窩に対しては、術前検査で、腋窩リンパ節転移を認めない場合、センチネルリンパ節生検(図6)を行い、腋窩リンパ節転移を認めた場合、腋窩郭清を行います。

センチネルリンパ節(別名:見張りリンパ節)とは、癌細胞が乳房からリンパ管に沿って流れつく最初のリンパ節です。センチネルリンパ節に転移がなければ、腋窩郭清を省略します。この方法により、リンパ浮腫、上腕内側の感覚異常などの合併症を少なくすることが出来ます。当院の診療実績を示します(図7)。

放射線療法
放射線は細胞増殖に必要な遺伝子に作用して癌細胞を死滅させます。温存乳房やその周囲の組織内の再発を予防するために行われます。乳房部分切除術を行った場合、術後に放射線療法を行うことが標準的です。乳房切除術を行った場合、腫瘍の大きさや腋窩リンパ節転移の状況により放射線療法を行います。当院では、放射線科で約5週間、分割照射を行います。副作用は軽度で外来治療が可能です。
内分泌療法
ホルモン受容体陽性乳癌に対して行われます。エストロゲンの合成を抑制するアロマターゼ阻害薬や、エストロゲンと癌細胞のエストロゲン受容体の結合を阻害するタモキシフェンにより、癌細胞の増殖を防ぎます。閉経前後でエストロゲンの産生経路が異なるため、閉経状況により薬剤を使い分けています。
化学療法(抗癌剤治療)
再発リスクの高い乳癌患者に対して行われます。癌細胞のDNAや癌細胞が増殖する過程を傷害することで、癌細胞の増殖を抑えます。作用の異なる抗癌剤を組み合わせで、決められた回数を投与します。治療期間は、約3~6か月です。様々な副作用がありますが、有効な予防法や対処法があり、外来治療が可能です。
分子標的治療
癌細胞の増殖に関わる特定の因子を標的とする治療を“分子標的治療”といいます。分子標的治療薬は、癌細胞の特定の因子を標的とするので、大きな副作用なしに癌を抑える効果が期待できます。
- 抗HER2薬
- HER2(human epidermal growth factor receptor 2)陽性乳癌に対して行われます。HER2タンパクは、癌細胞の表面にあり増殖シグナルを出しています。抗HER2薬は、HER2タンパクに結合し、癌細胞の増殖を阻害します。
- PARP阻害薬
- BRCA1/2遺伝子が正常に機能していない細胞においてPARP(poly(ADP-ribose)polymerase)を阻害すると相同組み換えによるDNA修復酵素が働かず相同組み換え修復不全(homologous recombination deficiency: HRD)となり、細胞は合成致死へ誘導されます。PARP阻害薬は、PARPタンパクを阻害して、癌細胞の修復ができなくすることで、増殖を抑えます。対象は、BRCA病的バリアントを有する再発高リスクの患者さんです。
- CDK4/6阻害薬
- CDK(cyclin-dependent kinase)4とCDK6は、細胞の成長と分裂の重要な調整因子であり、細胞周期のG1期からS期への移行を制御します。CDK4/6を阻害することにより、癌細胞の増殖を抑制します。対象は、再発リスクが高いホルモン受容体陽性HER2陰性乳癌です。
免疫チェックポイント阻害薬
腫瘍免疫に対するブレーキであるPD-1(programmed cell death-1)とそのリガンドであるPD-L1(programmed cell death-1 ligand 1)を標的とした抗体医薬で乳癌においても有効性が示されています。癌細胞は生き残るために免疫細胞の働きを抑えようとします。免疫チェックポイント阻害薬は、抑えられていた免疫細胞(T細胞)を再び活性化させて攻撃力を高め、癌細胞の増殖を抑える薬です。対象は、再発リスクが高いトリプルネガティブ乳癌です。
最後に日本人における生活習慣因子と乳癌の関連を示します(図8)。乳癌が見つかっても、早くに治療すれば、治癒を目指すことができます。さらに、乳房を温存しながら、わずかの外科切除で癌を取り除くことも可能です。乳癌の早期発見の秘訣は“自己触診”の習慣を身につけること、そして“乳癌検診”を定期的にうけることです。

診療実績
2021年~2024年
疾患 | 術式 | 2021年 | 2022年 | 2023年 | 2024年 |
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乳癌 | 乳房切除術 | 29 | 38 | 35 | 35 |
乳房切除+再建術 | |||||
乳房部分切除術 | 7 | 24 | 13 | 14 | |
その他 | 6 | 2 | |||
良性腫瘍 | 腫瘤摘出術 | 7 | 9 | 3 | |
その他 | |||||
その他 | |||||
計 | 49 | 62 | 59 | 52 |
スタッフ紹介
田中 仁寛
- 専門領域
- 乳腺外科
- 専門性資格
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- 日本外科学会認定外科専門医
- 日本乳癌学会認定乳腺専門医
- 日本救急医学会認定救急科専門医
- 日本がん治療認定医機構認定がん治療認定医
- 日本乳がん検診精度管理機構マンモグラフィー読影認定医