NOM時代における外傷性肝損傷に対する治療成績 -NOMの適応と限界に関する検討-

はじめに
肝臓は腹腔内最大の臓器であり、外力により損傷を受ける頻度は受傷機転に関わらず多く、全外傷患者の約5%、腹部臓器では最も頻度が高いとされています。
その外傷性肝損傷の治療の第一選択は手術療法から非手術療法(non-oepartive management;NOM)へと変遷しており、海外からの報告によるとNOM選択率は86%と報告され(Tnkoff G,et al. J Am Coll Surg.2008)、積極的なNOMの選択により肝関連死亡率の低下を認める一方、経過の中で肝関連合併症を認め手術療法へと移行さぜるを得ない症例も存在することが報告され(Polanco PM,etal. J Trauma Acute Care Surg.2013)、NOMの適応と限界に関してはいまだ議論の余地がある状況です。さらに医療事情の異なる本邦に即した肝外傷に対するNOMの適応と限界についての報告もなされていません。
本研究では多施設での症例の蓄積により、NOM時代における外傷性肝損傷治療の治療成績およびNOM不完遂症例におけるその危険因子を検討し、外傷性肝損傷に対するNOMの適応と限界について検討します。
研究内容
以下の臨床情報を診療録から抽出、統計学的解析を行います。
- 臨床の所見
- 年齢、性別、既往歴、GCS(意識レベル)、ショックの有無・程度、輸液への反応性、受傷機転
- 検査所見
- 画像所見(超音波,CT,血管造影)、手術施行時開腹所見
- 客観的指標
- RTS(Revised trauma score)、LIS(Liver injury scale;American Association for the Surgery of Trauma)、AIS(Abbreviated Injury Score)、ISS(Injury Severity Score)、TRISS(Trauma and Injury Severity Score)
- 臨床経過
- 合併症、肝酵素経時的変化、輸血量、在院日数、NOM 逸脱原因、手術術式、予後
本研究では、診療録に記載された内容のみ用いて研究を行いますので、患者さんに負担が生じることはありません。
対象
別府医療センターにて2010年1月1日から2015年12月31日までに治療をうけた外傷性肝損傷の患者さん13名を対象としています。
個人情報の管理について
本研究は「ヘルシンキ宣言」および「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」に従って実施します。個人情報の漏洩を防ぐため、臨床研究に関する氏名等の個人情報は削除し、第三者が個人情報を閲覧できないようにしております。
また、本研究の実施過程、および結果の公表(学会発表・論文発表)の際には、患者さんを特定できる情報は一切含まれないように配慮しています。
研究期間
倫理審査委員会承認日より平成29年3月31日まで
医学上の貢献
腹部外傷において最も頻度が高く。生命の危険性も高い肝外傷に関して、一刻を争う救急救命の現場おいて、緊急手術を行うべきか血管塞栓術などの非手術的治療を行うべきかという治療法の選択における指針が得られれば、本邦における腹部外傷に対する治療成績の向上に貢献できると考えられます。
研究費
本研究は、日本腹部救急医学会による平成27年度腹部救急を担う若手医師のための臨床研究助成金にてすべて行われます。
利益相反
研究代表者・担当者・当院の研究責任者において、本研究の実施に際しての特別な利益相反は発生しません。
研究機関
- 研究代表者
- 九州大学大学院医学研究院 消化器・総合外科・古屋匠平
- 研究担当者
- 九州大学大学院 消化器・総合外科 教授 前原喜彦
九州大学大学院 消化器・総合外科 准教授 調 憲
九州大学病院 肝臓・脾臓・門脈・肝臓移植外科 診療准教授 吉住 朋晴 - 当院の研究責任者
- 国立病院機構別府医療センター 臨床研究部長 消化器外科部長 川中博文
国立病院機構別府医療センター 消化器外科 川中博文
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